世界最大の塩の湖
ボリビアで一番有名な観光地「ウユニ塩湖」。世界中の観光客が集まるこの世界最大の塩の湖は、鉱山の町ポトシを起点とすると車で約五時間の場所。塩湖自体の素晴らしさもさることながら、ポトシ、ウユニ間のアルティプラーノ(高原地帯)の美しい景観も見逃せない。
ポトシからウユニへ
ポトシの町を通り抜け、セロ・リコ(鉱山)周辺に差し掛かると「UYUNI」と書いた立看板が視界に入る。ここからウユニまでは一本道。所要約五時間の道のりだ。
未舗装の道を砂埃を巻き上げながら走る4WDはやがて山間の道に入ってゆく。山の斜面に沿って続く道はちょうど車二台がすれ違うことができるほどの狭い道だ。車窓から外を眺めると、標高が高いせいもあるのだろう、どこまでも続く青い空は澄みわたり、輝きを増したように見える太陽は下界に向かって強い光を照射する。普段、都会で暮らす人ならばこの景色を見るだけで開放感を感じることだろう。
一時間半ほど走ると、今度は切り立った岩が連なる谷間が五分ほど続き、ここを過ぎると、曲がりくねった山道から遠くに山々を望む広々とした道が真っ直ぐに延びてゆく。この道に沿って流れているはずの川は乾期の今は干上がっており、所々に小さな水溜りを作っているにすぎないが、雨期には川の水が氾濫し道を塞ぐこともあるという。
途中、背の低い日干しレンガで出来た家が建ち並ぶ集落が見えてきた。Chaquilla(ケチュア語で足という意味)という名のこの村では、リャマの飼育、キノア、ジャガイモなどを栽培して生計をたてるといった自給自足の生活を送っているそうだ。しかし、この時、村には人の姿はほとんどなく、飼育されているリャマが一、二頭、辺りをぶらついているだけであった。
Chaquilla村を過ぎたところで、思いもかけずリャマの群れと出会った。その群れはこちらがカメラを持って近づいても動じるそぶりは全くない。私たちの乗った4WDの方を振り向き数秒見つめただけで後は興味を失くしたようにゆっくりと通り過ぎていってしまった。咄嗟に構えたカメラのファインダー越しから見たリャマの群れは青い空とアンデスの山々をバックにまるで一枚の絵葉書のように美しい。
二つの山の間に向って一直線に延びる道を暫く走ると、右方向に白い大地が見えてきた。
ドライバーに尋ねるとこれも塩だという。彼は雨期に降った雨が乾期になり太陽の光で水分を蒸発させ、土に含まれていた塩分が地表へ浮き出てくるのだと説明した。
道はだんだん狭まってゆき、再び山道へと入ってゆく。サボテンが生える赤土の山に沿った道で、ポトシを出発してからちょうど二時間三〇分が経過しようとしていたが、車窓からの景観が変化に富んでいるため全く飽きを感じさせない。
山道を抜け、広い道に出たところで休憩のために4WDから下り、胸一杯に深呼吸してみる。新鮮な空気が肺いっぱいに広がるようだ。真夏のような強い日差しが照りつけるが乾燥した空気はひんやりとして気持ちがよい。
Palkaという村を過ぎ、比較的緩やかな上りと下りが続く山道へ入った。その山道を抜け、再び小さな村を通過する。道が赤土に変化したかと思うと、今度は禿山に囲まれた砂漠のような道に出た。そこには「Km一四五」の標識。これはポトシからの走行距離をあらわしている。
左前方、一〇〇mぐらいの距離があっただろうか、ビクーニャが草を食んでいる様子が視界に入る。ビクーニャは生息数が少なく保護動物にも指定されている希少価値の高いめったにお目にかかれない動物だ。4WDの窓から身を乗り出しカメラを構えるが、砂と砂利の道は揺れが激しくカメラ位置が定まらない。そうこうしているうち、シャッターチャンスを逃してしまい、ビクーニャも走り去ってしまった。
暫くして見晴らしのよい一本道にさしかかると左手前方の山間からうっすらと白い大地が見え隠れしはじめた。そこから山道に入り三〇分ほど車を走らせると突然視界が大きく開け、数キロ先にうっすらと白線を引いたようなウユニ塩湖の全貌が広がった。
その地までは、あと、もう一息だ。
そこから更に一〇分ほど4WDを走らせると、民家や商店が軒を連ねる町中へ入っていった。ウユニの町である。ウユニの人口は約一万人。この町に住む人たちは、アルゼンチンやチリとの貿易を担う鉄関係者や塩に関係する仕事に従事する人たちがほとんどだ。観光客を受け入れるためのホテルやレストランもあるが、その規模は小さく、世界的に有名な観光地とは思えないほど静かで小さな町である。
塩のホテル
塩湖までは町から更に三〇分ほど車で行ったところだ。ポトシから来る観光客はウユニへ到着後、町のホテルか塩湖の中にある「塩のホテル」に宿泊し、翌朝、塩湖の観光を行うのが通常だ。
町からは塩湖は見えない。それゆえ、塩湖の中に建ち、建物や調度品の全てが塩で出来ているウユニならではの「塩のホテル」に宿泊したいと望む観光客は少なくない。この「塩のホテル」はこれまで二軒しかなかったが、最近、三軒目がオープンしたことを聞き、今回はその新しい塩のホテル「LUNA SALADA」へ宿泊することになった。以前からある二軒の「塩のホテル」は、規模が小さく、バス、トイレは共同、暖房設備も整っていないといった、ホテル自体はお世辞にも快適とは言えないものであった。それらに比べると新しくオープンしたこの「LUNA SALADA」は全室にバス、トイレ、暖房設備が完備しており、レストラン、バー、遊技場もある本格的なものとなっている。
塩のホテルに宿泊したいと考える観光客は、建物から調度品に至るまで塩でできているホテルが珍しいということだけではなく、そのロケーションにも魅せられる。広大な白い大地をゆっくりとオレンジ色に染めながら沈む夕日、強い光を発しながら力強く上昇してゆく朝日は美しく見る者の心を和ませる。静寂に包まれる夜、月明かりに薄ぼんやりと照らされた塩湖にたたずみ見上げる満天の星空は幻想的で、どこか宇宙を連想させる。
塩湖ツアー
午前9時、私は昨日に引き続き4WDで迎えに来たドライバーとともにホテルを出発した。霜が降りたような、白と茶のまだらな大地を5分ほど走ると、突然、真っ白な大地が視界に広がる。まるでスキー場にでもいるような錯覚さえおこさせるその大地が、全て塩で覆われているとはにわかに信じがたい。精製所に運ぶためだろう。三角に盛られた塩の山が、ところどころで目に付く。その白い山に降り注ぐ太陽の照り返しは強く、目が開けられないぐらいに眩しく輝いている。空の青と塩の白が渾然一体となった様は、地球以外のどこか違う星にでもいるような不思議な空間だ。
私を乗せた4WDは、どこまでも続く白い大地を猛スピードで失踪する。ときおり横並びになったフラミンゴの群れが地面スレスレを低空飛行で飛んでゆく姿が見えるだけで、そこには人も車もほとんどいない。
最初に到着したのは、HOTEL PLAYA BLANCAという昔からある「塩のホテル」で、このホテルは塩湖ツアーの観光箇所の一部となっている。宿泊客は、バックパッカーの若者たちが多いらしい。
「塩のホテル」を10分ほど見学した後、4WDは塩湖の中にポカリと浮かんだように存在するISLA DEL PESCA(魚の島)へ向かった。この島は、その全景が魚のような形をしているため、その名前が付けらたそうで、島全体を覆うようにしてインカの人々が植えたといわれるサボテンが生えている。
小高い島の頂上に登り、塩湖を見渡すとその広さに圧倒される。遠くには、現在は活動を休止しているトゥヌパ火山がうっすらと霞んで見える。
簡単な昼食を摂った後、ISLA DEL PESCAを出発し、塩湖の中にある村へ。この村にはアドベ(日干しレンガ)で作られた小さな家が数軒と教会がある。
その後、4WDは塩の精製所へ向かった。
精製所といっても、規模は小さくその作業は家族単位で行われている。その家の奥さんと思われる女性が精製の工程を説明してくれたのだが、塩に含まれている水分を飛ばし、ヨードを混ぜ、袋詰めにするまでの作業全てが人の手によるもので、家族全員が協力し合って仕事をしているのだそうだ。
ウユニ塩湖ツアー最後の見学場所は、ウユニの町の近くにある「鉄道の墓場」と呼ばれる場所で、ここには利用されなくなった古い列車が放置されている。
周辺には何もない広い大地に置き去りにされた錆の浮いた列車はどこか寂しげで、夕暮れせまる傾きかけた太陽に照らされたその姿は、哀愁さえも感じさせる。
「鉄道の墓場」とはよく言ったものである。
筆者は、その日の夜行列車で、ラ・パスより南東に230kmの町オルーロへ向かった(オルーロは、「カルナバル」で有名な町で、ブラジルのリオのカーニバル、ペルーのインティ・ライミの祭りに次いで南米三大祭りの一つに数えられている)。
しかし、ボリビアの最近のツアーの傾向としては、ウユニにもう一泊して、翌日、車でスクレまで戻るコースが主流のようだ。
列車は夜行で、エクスプレソ・デル・スルが、水、土の運行(ウユニ0:05発、オルーロ07:00着)。ワラワラ・デル・スルが、月、木の運行(ウユニ01:45発、オルーロ09:10着)。早くて新しいエクスプレソ・デル・スルのほうを利用する観光客が多い。
現地旅行社によると、ウユニ、オルーロ間の車での移動は、道が悪く故障する車もあるので、あまりお勧めできないそうだ。 |