ペルーが世界に誇る「神の美酒」ピスコ Pisco
その土地や国には、その土地や風土に合った食べ物、飲み物が必ずあります。旅行した先のその場所で食べたものの味わいを思い出すと、その土地の人々との触れ合いや何気ない景色に心が吸い寄せられます。また、故郷を離れた人間が久しぶりに地元の料理や酒に舌鼓を打つとき、筆舌に尽くしがたい郷愁・望郷の念にかられていたことを再認識します。郷土料理や地酒というのは、そういった記憶をくすぐるものでなくてはなりません。
ペルーを代表する酒、ピスコ(Pisco)もそのひとつに数えられるでしょう。ピスコはぶどうを蒸留して作ったアルコール42度前後の酒で、日本では酒税法の関係でブランデーに分類されますが、むしろウォッカなどに近く淡く無色透明に近い飲み物です。飲んだときの口当たりは非常にまろやかですが、体内で燃えるようにかっとなる点もウォッカと類似しています。
ピスコ(Pisco)は、リマより南に約300キロほど行った砂漠地帯のオアシス「ピスコ」という地名からきています。しかし、一地方名であったピスコがペルー国内のみならず世界的に有名になるまでには、歴史に裏打ちされた長いストーリーがあります。
ピスコの歴史
砂漠のオアシスであるピスコ地方はわずか数十メートルに太平洋の海原を望むという風土的特徴があります。スペインによる植民・入植以前、この地方に暮らす人々は太平洋の上空を飛ぶ沢山の海鳥のことをケチュア語で「ピスコ」(神の使いの鳥)と呼んでいました。
また古来よりペルーの海岸地域に暮らす人々はPiskosという共同体を作り生活していました。特にこの地方に暮らすPiskosの人々は陶器作りや、アルコールやチチャ(とうもろこしから作る酒)を保存するために使う粘土の壷作りに優れていました。
16世紀初頭(1520年代、後にインカ帝国を滅ぼすことになるフランシスコ・ピサロがぶどう苗を持ち込んだのが最初といわれている)、この地域の気候・風土がワインの製造に適していると判断したスペイン人が、ぶどうとその栽培法をこの地域に持ち込みます。その際、大量に持ち込んだぶどうを入れる為にPiskosの人々による粘土の壷が利用されました。スペイン人達はこの壷自体をピスコと呼ぶようになり、しばらくの後、壷=ピスコとして定着します。
スペインによる統治後この地方でぶどうの栽培によるワイン作りが盛んになり、ぶどうやワインを入れた大量の壷を運ぶために付近の河川が利用され、また南米の他の地域に運び出すための港が作られました。その為土地や河川、港を含んだこの地域一帯をピスコの壷にちなんでピスコ地方と呼ぶようになります。
ではぶどうを蒸留して酒をつくるようになったのはいつ頃からかというと、文献によると17世紀初頭(1613年)の事のようです。この蒸留酒、口当たりが非常にまろやかなことからすぐにペルー全体、またチリなどへ輸出されるようになりますが、その際ピスコ地方の港から運び出されたため、港の名前がそのまま蒸留酒の名前「ピスコ」として使用され、定着します。
お好み焼きの発祥が大阪か広島かというのと同様、ピスコに関してもペルーかチリかといった議論が聞かれますが、現在では一応ペルーのほうに軍配が上がっているようです。というのも、数年前に発表されたカリフォルニア州港湾局の古い文献に、1913年にはペルーの「ピスコ」が既に遠くサンフランシスコまで運ばれており、20世紀初頭サンフランシスコやロサンゼルスでちょっとしたピスコブームを起こしたという記述が見つかったからです。
ペルーを旅行している際に、間違っても「隣国のチリで本物のピスコを飲んできた」などと言うことのないように!ペルーの人々にとっては「神の鳥」がこの世に遣わしたもうた、まさに「神の酒」なのでありますから。
ピスコの種類
ペルーは南半球に位置する国土のため、ぶどうの収穫の時期は夏の2〜3月です。
スペイン人が持ち込んだぶどうの品種は数種類に分けることができます。まず赤ワイン用ですが、ヨーロッパでは高級赤ワイン用に使用されるカベルネ・ソービニョン(Cabernet Souvinion)、マルベック(Malbec)やメルロー(Merlot)といった品種が主なものです。白ワイン用ではピノ・ブラン(Pinot Bran)、モステカテル(Mostecatel)などの種類が有名です。ピスコやさらにリマより約400キロ南にいったイカ地方には沢山のワイナリーがありますが、中でもTacamaやOcucajeといった有名ワイナリーのワインはペルー国内どこでも飲むことができます。
では蒸留酒ピスコをつくるのに最適なぶどうの品種はというと、ケブランタナ(quebrantana)という香りはさほど強くない品種で、発酵したばかりのケブランタナ品種のぶどうの果汁を濾してつくると、まさに「神の美酒」ピスコが出来ます。
このケブランタナにも数種類有り、濾す種類によって出来上がるピスコも数種類に分類されます。ここでは代表的な数種類をご紹介しましょう。
Puro(プーロ) あまり香りが強くない。ストレートでもオンザロックにして飲んでも美味しい。ピスコ本来の味を楽しめる。
Aromatico(アロマティコ)
モスカート種という非常に香りの強い種類からつくられるため、その名の通り独特の爽やかな香りを楽しめる。
Mosto Verde(モストベルデ)
発酵の過程で濾されたぶどうの果汁に含まれる糖分をアルコール分に反映させない独自の方法でつくられたもの。その為口当たりもかなりきつく、飲んだ後喉がカッと熱くなる。これぞペルーの酒!と極めたい方におすすめ。
Acholado(アチョラード)
ケブランタナに様々な品種をミックスしてつくったもの。
ピスコのつくりかた
ピスコ地方はもちろん、リマ以南のカニエテ、イカ地方などには大小さまざまなボデガ
(bodega ピスコをつくっている酒造)があります。収穫されたケブランタナ品種のぶどうをまずは十分に圧縮します。この圧縮作業、大きなボデガですと外国産の圧縮機で行っていますが、家庭農園程度の小さなボデガですと、今でも足でぶどうを踏み慣らすという原始的な方法が採られています。
圧縮してぶどうジュース状になったものをワインにするには、自然発酵させる必要があるので発酵楼に入れられます。この時点で糖分がアルコールに変わるイースト作用という化学反応が起こります。このイースト作用はアルコール度数が15度以上になると化学反応がストップし、辛口のワインとなります。
蒸留酒にするためには、イースト作用による化学反応でアルコール度数が10度位になった時点で、いったん発酵楼から取り出します。次にポットスチルという加熱器に移し替え高熱を加えます。すると78度位から蒸気となり、再びアルコール度の高い気体へと変化していきます。こうした蒸留作業によって気体となったアルコールを冷却した液体状にして、蒸留酒ピスコの出来上がりです。
ペルー・オリジナルカクテル 「ピスコサワー」
こうして出来上がったピスコですが、先述したように口当たりはまろやかなのですが、アルコール度数42度にたがわず体内が燃えるようにかっとなります。ですので、女性やアルコールは少し嗜む程度という方には少々勇気のいるお酒かもしれません。
そこで、このピスコをカクテルにして飲みやすくしたのが、恐らくピスコ以上に日本はもちろん世界的に知られているであろう「ピスコサワー」です。
つくり方はいたって簡単です。
1 シェーカーまたはミキサーにピスコ45ミリリットルを注ぎます。
2 ピスコに卵1個分のの卵黄を除いた卵白とレモンの果汁を加えます。
3 最後に砂糖を適量加えて十分にシェイクもしくは混ぜて出来上がりです。
ひんやりと冷たいカクテルがご希望なら小さく砕いた氷も一緒にシェイクすると良いでしょう。個人的にはシェーカーで作ったピスコサワーのほうが氷が解けすぎないので、さっぱりひんやりとして美味しいです。またペルーのレストランなどで注文すると砂糖をふんだんに入れたピスコサワーが出てくることが多いです。これはピスコサワーに限らず、一般的にペルー人の意識にカクテルとは甘くなくてはいけないもの・・・というのがあり、その為どのカクテルもかなり甘めのことが多いようです。砂糖や下手をするとガムシロップの味でピスコサワー本来の清涼感を損なわずに楽しみたい方は、砂糖控えめ(レストランでは「メノスアスーカル!(砂糖を少なめに!)」と注文してください)でお飲みになることをおすすめします
また日本にご帰国後もピスコサワーのさっぱりしたカクテルが恋しくなった時には、ペルーで市販されているピスコサワーの粉末状の素がお役に立つかもしれません。
番外編
スーパーの酒類コーナーや酒屋には、実に多くの種類のピスコが販売されております。ここでは、その中でも筆者一押し!!のピスコをご紹介します。
ANDRIEGO(アンドリエゴ)
トレド元ペルー共和国大統領が外遊や外国からの貴賓を招いた際に必ず紹介していたピスコ。香りが強めの割には飲みやすいのが特徴。
CALDERON(カルデロン)
リマの南約130キロにあるカルデロンの幻のボデガでつくられているピスコ。ピスコ博物館がおすすめするだけあって、特にMosto Verdeの口当たりと味わいは最高。すっと喉を通ります。弊社スタッフも一押し!
番外編 その2
ペルーのカクテルで横綱級に有名なのがピスコサワーですが、女性の方やお酒はちょっと嗜む程度という方向けに、ピスコサワー以外のペルーのカクテルをご紹介しましょう。
ペルーリブレ(Peru Libre)
コカコーラとラム酒をミックスしたキューバリブレ(Cuba Libre キューバの自由)は、ご存知の方も多いはず。このベースをペルーのピスコにしたのがペルーリブレ「ペルーの自由」です。ピスコの強さがコカコーラの甘さで中和されて、非常に飲みやすいです。またピスコさえあれば、簡単に自分でもつくれるのも嬉しいですね。
アルガロビーナ(Algarobina)
これはアルガロボという木の樹液(シロップ)からつくるカクテル。アルガロボはペルー太平洋沿岸の乾燥した地域に生育するマメ科ブロソビス属の樹木です。ペルーでは北部トゥンベスやピウラなどで多く見られます。アミノ酸やビタミンC、豊富なミネラルを含んでおり、樹液はシロップとしてお菓子やアイスクリームの材料としても、またそのままでは下痢止めとしても使われます。また木の皮は出血を止める作用があり、家畜の飼料としても活躍しています。まさに先住民が残した万能植物で、「砂漠の王様」の異名を欲しいがままにしています。
このアルガロボのシロップ(樹液)にピスコを混ぜて、砂糖とシナモンを加えたのが、ペルーの有名なカクテルアルガロビーナです。口当たりはかなり甘いので、女性やお酒はほんの少しといった方に、ジュース感覚でお飲みいただきたいカクテルです。
マカサワー(Maca Sour)
ピスコサワーの応用編というか便乗編です。ピスコに粉末状のマカを加え、卵の白身とレモンをされに加えてミックスしたもの。マカの粉末は少し苦味があるので、適量の砂糖やガムシロップを加えたほうが、カクテルとして飲みやすいでしょう。マカの滋養力を生かした、元気の出る!?カクテルです。
マラクーヤサワー(Maracuya Sour)
これまたピスコサワーにあやかったカクテルで、ピスコとマラクーヤジュースを最初に混ぜてつくるのがポイント。さっぱりとした味で、非常に飲みやすいです。マラクーヤは酸味が強いので、レモンは少し控えめのほうが美味しいカクテルが出来上がります。
ドルフィンサワー(Dolphin Sour)
リマ市内サンイシドロ地区にある5つ星高級ホテルデルフィンホテルのオリジナルカクテル。ピスコにブルーキュラソーを加えており、真っ青なカクテルで見た目にもとてもキレイ。ホテルロビーには二頭のイルカのための大きな水槽があり、一日数回のイルカのショーを楽しむことが出来、週末は家族連れの姿も見受けられます。また地下はイルカの水槽を眺めるお洒落なバーになっていて、カップルや女性同士の憩いの場にもってこいです。リマで少しゆったりお酒を飲みたい方におすすめの場所です。
マチュピチュ(Machu Picchu)
インカの虹の七色を模した見た目にもキレイなカクテル。ピスコにオレンジジュースとグレナデンシロップ、ミントを加えて出来上がり。ペルーが世界に誇る歴史遺産マチュピチュに思いを馳せながら、じっくりと味わって飲みたいカクテル。
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